5月25日付
名前をもじった愛称がある。メロドラマの巨匠、映画監督の成瀬巳喜男はやるせない抒情の薫る作風で〈ヤルセナキオ〉、作家の安藤鶴夫は涙もろい感激屋で〈カンドウスルオ〉…といった具合である◆これも一例だろう。内閣府原子力安全委員会の委員長、班目春樹氏が連立与党の一角、国民新党の亀井静香代表から「デタラメ委員長」の異名を奉られた◆福島原発1号機への海水注入を一時中断して原子炉の損傷をさらに悪化させたその時、班目氏は菅首相にどのようなアドバイスをしていたのか――これがはっきりしない◆再臨界の可能性を問うた首相に班目氏は「ゼロではない」と答えたが、国会答弁によれば「事実上ゼロだ」の意味で述べたという。指し示す方向は正反対になる。深刻な危機のさなかに、国語の読解力テストもどきの会話が交わされていた。危機管理そのものがデタラメだったか◆ちょうど今、ラジオから流れるプロ野球のナイター中継で、実況アナの告げる〈ワンナウト〉が「カンナオト」と聞こえた。いやな“もじり”である。政権のスリーアウト、ゲームセットがいつかは知らない。
(2011年5月25日01時22分 読売新聞)
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