卒業式で国旗に向かって起立し、国歌を斉唱するよう教師に命じた校長の職務命令は憲法に違反しない――。
最高裁は、そう結論づけた。東京都から定年後の再雇用を拒否された都立高校の元教師が、損害賠償を求めた訴訟の上告審判決だ。
判決理由をこう述べている。
卒業式や入学式は、教育上、特に重要な儀式的行事である。式典の秩序を保ち、円滑な進行を図る目的で校長が出した職務命令には必要性と合理性がある。
妥当な判断である。この判決を機に、教育現場で長く続いている国旗・国歌を巡る処分や訴訟などの混乱に終止符を打つべきだ。
元教師は「君が代を起立して斉唱することは良心が許さない」と訴えていた。校長の職務命令は思想・良心の自由を保障した憲法に違反すると主張していた。
しかし、君が代の斉唱は、学校の式典などで広く慣例的に行われている。教師は生徒に国旗・国歌を尊重する態度を教え、自らその手本を示す立場にある。
職務命令について、最高裁は、「思想・良心の自由を間接的に制約する面がある」とも述べた。だが、職務命令の目的や内容が正当なものであれば、制約は許されるとして合憲の結論を導いた。
国旗掲揚と国歌斉唱は、学習指導要領が「入学式や卒業式で指導するものとする」と定めているにもかかわらず、一部の教師がこれらを拒否してきた経緯がある。
東京都は2003年に起立・斉唱を義務づける通達を出したが、違反して懲戒処分を受けた教職員は延べ400人以上に上る。
判決が指摘するように、公立学校の教師は本来、「法令や職務命令に従わなければならない」ことを自覚すべきだろう。
折しも大阪府では、橋下徹知事が代表を務める地域政党「大阪維新の会」の府議団が、教職員に起立・斉唱を義務づける全国初の条例案を議会に提出した。
橋下知事は「府教委が指導を続けても、まだ職務命令に違反する教員がいる」と言う。昨春以降、6人の教師が処分を受けた。そうした状況では、条例制定の動きが出てくることもやむを得まい。
さらに、9月議会では、違反した教職員の処分基準を定めた別の条例制定も目指している。
自国、他国の国旗・国歌に敬意を表すのは国際的な常識、マナーである。そのことを自然な形で子供たちに教える教育現場にしなければならない。
(2011年5月31日01時18分 読売新聞)