Saturday, May 28, 2011

18/05 編集手帳

5月18日付 

 かつての殿様、加藤清正はのちのちも熊本の人々に慕われた。芝居でも、清正公が現れると観客の反応が違う。明治の頃だろう。「忠臣蔵」にも登場したと、扇谷正造『吉川英治氏におそわったこと』(六興出版)にある◆区切りのいいところで舞台に清正公が登場する。ひとことセリフを言って去るのだという。「さしたる用もなけれども…」◆何の用があったのか――菅首相が野党から責め立てられている。震災翌日に原発を視察した判断をめぐって、である。首相は格納容器が破損している可能性を認識していながら、司令本部の官邸を留守にしており、「出る幕」だったかどうかは大いに怪しい◆そういえば、政府と東京電力が一体となって原発事故にあたる「対策統合本部」の設置(3月15日)よりも、蓮舫行政刷新相に節電啓発担当相を兼務させる人事(同13日)のほうが先というのも、ピントがぼけていた◆拍手がもらえそうならば無理にでも「出る幕」をつくってしまう“興行師”のような最高指揮官では困る。視察は意義があったと首相は言う。「さしたる用もなけれども…」と言うはずもないが。

(2011年5月18日01時11分 読売新聞)

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