Saturday, May 28, 2011

25/05 原発事故調査委 「大失敗」の原因を究明せよ(5月25日付・読売社説)

 「安全」が強調されてきた日本の原子力発電所で、なぜ深刻な事故は起きたのか。しっかり解明しなければならない。

 政府が、東京電力福島第一原発の「事故調査・検証委員会」設置を決めた。年内に中間報告をまとめるという。

 委員長には、「失敗学」の提唱者として知られる畑村洋太郎・東大名誉教授を起用した。10人程度の委員を予定している。

 畑村さんは、機械工学の専門家だ。成功体験よりも、むしろ失敗から学ぶことが物事の真の理解につながる、と説いてきた。様々な分野の事故を調査し、背景を含めて分析した「失敗知識データベース」を運営している。

 原発の事故調査でも、培った手法を生かし、再発防止と安全性向上につなげてほしい。役立つ情報は、速やかに取りまとめ、他の原発で活用すべきだ。

 福島第一原発では、1号機に続き、2、3号機でも、炉心溶融(メルトダウン)が起きた、との解析結果を東電が公表した。前例のない重大事故だ。

 直接の原因は、津波による冷却機能喪失だろうが、炉心溶融の連鎖を阻止できなかった点まで「天災」のせいにはできまい。

 冷却機能が失われた時の安全策に不備があった。最後の緊急手段として、原子炉の弁を開けて圧力を下げ、炉心溶融を防ぐ手順も定めてあったが、実施は遅れた。

 こうした「人災」の要因を徹底的に究明すべきだ。政府と東電の事故後の対応や、過去の政府の原子力安全規制のあり方まで、幅広く検証する必要がある。

 政府は、委員会に、菅首相をはじめ閣僚、官僚から聞き取り調査ができる強い権限を持たせた。調査過程も公開する。日本の原発の安全性に、国内外で不信が拡大している以上、当然だろう。

 政府は、歴史的な重大事故への対応を決めるにあたって、議論の中身など後世の参考になる詳細な記録を必ずしも残していない。それが懸念される。

 例えば、1号機では、原子炉を冷却する海水注入が中断し、事態悪化につながった、とも指摘されている。中断は首相官邸の指示とされるが、当時の詳細な記録がないため、事実関係は藪
やぶ
の中だ。

 記憶頼りの証言が続けば調査は難航する。委員会の体制を早急に整え、資料やメモなどの「証拠」保全から始めねばならない。

(2011年5月25日01時18分 読売新聞)

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