Saturday, May 28, 2011

17/05 編集手帳

5月17日付

 森鴎外は『ウィタ・セクスアリス』(岩波文庫)で述べている。〈世間の人は性欲の虎を放し飼いにして、どうかすると、その背にって、滅亡の谷に落ちる〉と◆その人の場合はどうなのだろう。肩書が肩書なので、谷から舞い上がる土ぼこりも並大抵ではないらしい。国際通貨基金(IMF)のトップ、フランス人のドミニク・ストロスカーン専務理事(62)が米国で逮捕された◆宿泊していたニューヨーク市のホテルで、部屋の清掃に入った女性従業員に性的暴行を加えた疑いが持たれている。専務理事は容疑を否認しているという◆〈この国(=フランス)の人々は愛国者と愛人に関してはすこぶる寛大なんです…〉(ロバート・ラドラム『暗殺者』)という考察もあるように、フランス世論は政治家をめぐる異性関係の醜聞には比較的寛容だった。今回は、しかし、強姦ごうかん未遂、監禁など禍々まがまがしい容疑の前に、次期大統領“本命”といわれた人の政治生命は風前のともしびという◆世界経済が多難の折に、主役の一人が何をしておるのやら。IMFとは「いいとしをして、もっと分別を」の略ではないので、念のため。

(2011年5月17日01時28分 読売新聞)

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