Saturday, April 23, 2011
22/04 余録:阪神大震災で被災者のケアにあたった精神科医は…
阪神大震災で被災者のケアにあたった精神科医は、地震の40~50日後に人々の間のある変化に気づく。ふだんより元気になった人と、ひきこもってしまう人の違いが目につく。その差がまるで開いたはさみの刃のように広がっていくのだ▲柔軟に新発想を出す人と考えられないほど頑固になる人、酒を飲まなくなった人とアルコールにのめり込む人、仲がよくなった夫婦とヒビの入った夫婦--最初のわずかな差が日を追ってどんどん開いていく。医師はそれを経済用語を借りて「鋏状較差(きょうじょうかくさ)」と呼んだ▲貧富の差もはさみ状の広がりを見せる。経済力や社会的人脈、地縁をもつ人々と孤立した人々の境遇の違いが拡大した。人々の生死を分けた震災は、その後も人々の幸不幸を切り分けた(中井久夫編著「昨日のごとく」)▲当時よりも長引く避難所生活のストレスだ。そして大津波から40日以上を経た今も行方の知れぬ子や親、兄弟を捜し続ける人々がいる。悲しみが癒えるどころか、積もり重なるこの震災である。復興に向かう周囲のムードと、取り残されるような孤立感に苦しむ人々の落差の広がりも未曽有の様相を見せている▲長い「被災」を生きる人を孤立させないさまざまな取り組みが必要な今後の復興だ。国が仮設住宅に配置する高齢者や障害者の介護の拠点もその一つだろう。自治体の判断で生活相談やボランティアの拠点にも使えるこうしたスペースをより有効に活用できればいい▲震災との闘いで一つになった人々の心も、復興へそれぞれの挑戦を始めていく今だ。「較差」のはさみが人同士のいたわり合いまで断ち切るのは防ぎたい。毎日新聞 2011年4月22日 東京朝刊
Labels:
column,
heart care,
mainichi,
psychologist,
yoroku
Subscribe to:
Post Comments (Atom)
No comments:
Post a Comment