2011年4月21日(木)付
気がつけばきのうは二十四節気の「穀雨」だった。暖かい雨が田畑をうるおし、野山も緑を濃くしていく。だが東北の被災地は一昨日から冷雨や雪が降った。季節の足踏みがもどかしい▼農耕をめぐる春の季語に「種選び」がある。米作りの最初の仕事で、塩水に浸して浮いた籾(もみ)を取り除き、下に沈んだ実の詰まった種籾を選ぶ。〈うしろより風が耳吹く種選み〉飴山(あめやま)實。やわらかな風を感じながらの作業は、春を待ちかねた農家の喜びであろう▼その種をまき、苗を作り、初夏にかけて田植えとなる。映画「七人の侍」のラストシーンを思い浮かべる向きもあろう。村人総出の晴れやかさ。田植えは古来、神事であり祭りでもあった。時は流れたが、集落で手伝い合う「結い」の気風は、今も各地に生きていよう▼だが今年、津波で冠水や流失の被害を受けた水田は岩手、宮城、福島だけで約2万ヘクタールにのぼるという。他県の増産でまかなえる。だから米不足は心配ないと国は言うが、作付けのかなわぬ農家の落胆はいかばかりか▼きのうのNHKが、原発禍から逃れた人たちが避難先で種まきを手伝う姿を映していた。どこか生き生きとして見えた。「生業(なりわい)」という語はもともと、五穀が実るよう務める業(わざ)を言うそうだ▼その生業の息づく共同体が、細りはしないか心配になる。どこに限らず復興に際し、古いもの、懐かしいものへ敬意を忘れてはなるまい。机上の定規では描けないもろもろが、地域の歴史と風土にはあるはずだから。
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