4月15日付
幼い子供が二人、原っぱで遊んでいた。一人が誤って穴に落ちてしまう。もう一人の子は家に駆け戻り、大人の助けを求めた。「××ちゃんが高い穴に落ちちゃったよ…」。深い穴、ではない◆教師の知人からずいぶん昔に聞いた話でうろ覚えだが、実話という。知人いわく、助けを求めた子は穴を上から見下ろすのではなく、友だちと一緒に穴の底にいる気持ちでいたから、“高い穴”になったのだろう、と◆相手の身になったとき、おのずと生まれ出る言葉がある。逆に、相手の身になれば、口をついて出るはずのない言葉もある◆福島原発周辺の避難対象区域をめぐる「当面住めない」発言が物議を醸している。「10年住めないのか、20年住めないのか…」。菅首相と面談した松本健一内閣参与は首相がそう発言したと記者団に明かし、あとで「発言は私(=松本氏)の推測」と訂正した。首相が語ったにせよ、松本氏が推測したにせよ、内閣発の言葉であることに違いはない。故郷を捨てよ、と告げるにも等しい心ない発言である◆“高い穴”の心で寄り添えないのなら、現地を視察して何の意味があろう。
(2011年4月15日01時25分 読売新聞)
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