福島第一原発の事故は、世界に大きな波紋を広げている。
象徴的なのがドイツだ。原発推進に傾いていたメルケル首相が姿勢を変え、「脱原発」の方向へと踏み出した。
原発を推進すべきか否か。世界中が悩み、論争がわき起こっている。その中でのドイツの政策転換への決断は重い。
保守陣営を地盤とするメルケル首相は昨年秋、原発の運転期間を平均で12年間延長すると決めた。それまでの運転期間は30年程度。この延長によって2040年ごろまで原発の運転を続けようとした。
ところが福島原発事故の後、各地で反原発デモが広がった。緑の党は支持率を上げ、州議会選で躍進した。日本からの放射能汚染はないか。自国の原発は安全なのか。そんな不安が国民から噴き出した。
首相は事故直後、17基の原発のうち、80年以前に建設した7基の運転を3カ月間停止するよう命じた。先週にはさらに踏み込み、すべての原発の運転期間を再び短くし、今後は太陽光や風力などの自然エネルギーに力を入れる姿勢を鮮明にした。
反原発や環境保護運動が盛んなこの国はもともと「脱原発」の旗を掲げていた。社会民主党と緑の党が組んだシュレーダー政権は02年、原発を20年代には全廃すると決めた。メルケル政権はこの路線に復帰する。
具体案は、6月初めに示される。産業界や与党には不満がくすぶっているようだ。
ただ政府はすでに、固定価格による太陽光や風力発電の買い取り制といった思い切った支援策に取り組み、水力を含む自然エネルギーが電力供給量に占める比率は昨年、17%となった。今後は省エネ対策や、小規模発電をつなぐ送電線網の構築といった対応が急がれよう。
ドイツに比べると、他の諸外国への影響は見えにくい。
原発を多く持つ米国、フランス、ロシアなどは原発推進の方針を変えていない。中国やインドも原発建設を続ける構えだ。5月の主要国首脳会議や6月の国際原子力機関の会合では、原発の安全基準の強化策が話し合われる。
しかしいくら安全論議をしても、福島原発の事態を落ち着かせない限り、各国の草の根の人々の不安は収まらず、原発の新規建設は難しいだろう。
ドイツの原発の数は日本の54基より少ないが、日独とも発電電力量の4分の1程度を原子力に依存している。
脱原発へのドイツの挑戦を日本は大いに参考にしたい。
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