Sunday, May 15, 2011

15/05 余録:今はともに泉下の人となったイラクの…

今はともに泉下の人となったイラクのサダム・フセイン大統領とシリアのハフェズ・アサド大統領が健在だった頃だ。犬猿の仲の2人はアラブの首脳会議で激しく口論した▲「お前はクルド人を何千人も化学兵器で殺した」とアサド氏が言い放てば、フセイン氏は「お前は2万人のイスラム教徒を殺したじゃないか」と罵倒する。エジプトの歴史家モハメド・ヘイカル氏の本で教わったが、中東とはすさまじい世界である▲シリアの「ハマの虐殺」(82年)はイラクのクルド人虐殺ほど有名ではないが、「ムスリム(イスラム教徒)同胞団」を標的とした歴史的蛮行だ。00年に父の跡を継いだバッシャール・アサド大統領も民衆運動を力で抑えつけ、死者は700人を超えたと聞くと、荒っぽい手法は父子相伝かと考えたくなる▲他方、米軍に殺されたウサマ・ビンラディン容疑者の息子たちが「殺害は国際法違反」との声明を出したという。米紙によると、彼らは父の思想とは相いれないが、即座の射殺や水葬を問題視、いわば米国の荒っぽさを批判している▲米政府の方は、テロ組織の首魁(しゅかい)の家に乗り込み問答無用で殺したことを「正義の執行」(オバマ大統領)と自賛する。米国の考え方が世界を動かすとしても殺害場所のパキスタンでは「主権侵害」の声もあり、「報復テロ」も起きている▲価値観をめぐる米欧とイスラム世界の摩擦は続くだろう。日本もカヤの外ではない。くしくもきょうは海軍の青年将校らが首相官邸に乱入し犬養毅首相を暗殺した日だ(1932年の5・15事件)。どうすれば世界のテロをなくせるのか。虚心に考えてみたい。

余録:ビンラディン殺害
毎日新聞 2011年5月15日 東京朝刊

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