2011年5月11日(水)付
子どもの頃によく乗ったボンネットバスは、方向指示器がピッと横に出た。運転席の標語を今も覚えているのは、年少ながらに得心したからだろう。「ハンドルでかわすな、まず止まれ」とあった▼レトロなバスと原発を同じには語れまいが、安全の基本動作としては不変の真理ではないか。浜岡原発を止めてほしいとの菅首相の要請を、中部電力が受諾した。東海地震の想定震源域の真上にあり、「危険な」の頭に「世界一」の冠さえ載る浜岡である。ここは政と民の英断を支持したい▼原発への責任は国内だけで完結しない。ある科学者はかつて、放射能をまき散らす核実験について「地球の一点から全世界が汚染できるとは誰も考えつかなかった」と語ったそうだ(武田徹「私たちはこうして『原発大国』を選んだ」より)▼チェルノブイリの事故のときは、日本の広い範囲で放射性ヨウ素が観測された。同じ事態を原発の壊滅的事故は招く。浜岡を「ハマオカ」にしない決意は、損得を超えた世界へのメッセージでもある▼落語だったかに、亀を買う話がある。夜店で「万年生きる」と言われて買うと、すぐに死んでしまった。文句をつけると「今日でちょうど万年目だった」。30年以内に87%とされる東海地震の「今日かも知れない確率」は、むろん笑話ですむはずもない▼地震国ゆえ「豆腐の上にある」と言われる他の原発も、必要なら止める胆力がほしい。人は景気と経済のみで生くるにあらず。福島の苦難が戒めている。
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