Tuesday, May 10, 2011

28/04 編集手帳

4月28日付 

 ある対談で語っている。〈初めてできた日本人の「友だち」は皆、死んでいった日本人でした〉。日本文学研究の第一人者で米国コロンビア大学の名誉教授、ドナルド・キーンさん(88)である◆戦時下の米国海軍で日本語を学び、日本兵が戦場に残した日記を翻訳する仕事に従事したのが、日本と結ばれた縁のはじめである。〈初めてできた日本人の「友だち」〉とは、その日記をつけた無名の兵士たちを指す◆友情の始まりのみならず、その完成にもまた、おびただしい「死」が作用している。震災のあと、キーンさんは日本国籍を取得して永住する決意を固めた。日本人と一緒に行動したい、と◆日本文学を考察するなかで人間観と人生観を養い、「日本という国がなかったら、私は果たしてまともな人間になれたかどうか…」とまで語った人である。震災後の苦難を共にする決断は、愛する国に寄せた究極の愛情表現だろう。一昨日、米国で最終講義を終えた。秋までには東京都内に移り住む予定という◆「ようこそ」か。「おかえりなさい」か。それとも「ありがとう」か。遠来の友を、何と言って迎えよう。

(2011年4月28日01時09分 読売新聞)

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