Tuesday, May 10, 2011

04/05 編集手帳

5月4日付 

 作曲家の武満徹さんは語ったという。「東北地方の鳥は『ドレミファ』という西欧的な音階で鳴いているように聞こえる」と◆東北弁を“日本一美しい言葉”と評したのは、戯曲『なよたけ』で知られる劇作家の加藤道夫さんである。「東北弁が標準語だったら、日本でオペラの完成は一世紀早まっていただろう」と。ドレミファのさえずりと、オペラを連想させる柔らかな響きと――鳥と人の言葉は同じ一つの風土から生まれたらしい◆日本一美しい言葉が日本一悲しい言葉になった春である。憩いの緑を津波に奪われた鳥たちにとっても今日は、明るく歌えぬ〈みどりの日〉だろう◆新聞の写真で見た白砂青松の景勝地「高田松原」(岩手県陸前高田市)の無残な光景が忘れがたい。大津波はアカマツやクロマツ約7万本を美しい砂とともに押し流し、見渡す限り、がれきと泥の荒れ地に変えた。そのなかに、樹齢200年ほどのアカマツが1本だけ奇跡のように残り、「この指とまれ」とでも言うように天を指さしている◆指にとまるのは季節の鳥だけではあるまい。復興を心に誓った地元の人々もそうだろう。

(2011年5月4日01時16分 読売新聞)

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