「新しい朝が来た 希望の朝だ……」。藤浦洸作詞、藤山一郎作曲の「ラジオ体操の歌」の一節である。今朝も公園で、広場で、自宅で音楽に合わせて愛好者たちが体を動かしたことだろう▲放送開始は1928(昭和3)年、多くの国民は、ラジオ体操に親しんで成長したことになる。小学生の夏休み、出席カードにハンコを押してもらうのが楽しみで早起きした覚えがある人も多いはずだ▲東京の上野公園と並ぶ大会場である大阪城天守閣前の広場には、雨の日も風の日も、冬は日がまだ昇らないうちから愛好者が集まってくる。週末は200人を超え、その大半を50~70歳代が占める▲すっかり日本の日常風景となったラジオ体操だが、明治維新以来のさまざまな近代の諸制度同様、元は輸入されたものだ。第一次世界大戦後、健康や衛生への国民の意識が高まる中、簡易保険事業を担当する逓信省(後の郵政省)が着目したのが、米国の生命保険会社が加入者を主な対象に放送していたラジオ体操だった(黒田勇著「ラジオ体操の誕生」)▲大震災から2カ月、被災地では今も約11万人が避難所生活を余儀なくされている。硬い床で寝起きしていると、高齢者の場合、血栓が血管に詰まり、死に至ることもあるエコノミークラス症候群が心配だ▲予防には適度な運動がいいが、ラジオ体操をお勧めする。子ども時代の記憶をたぐる必要はない。一連の動作は体に埋め込まれていてピアノの伴奏とともに手足が勝手に動き出すだろう。健康維持に加え、震災で失われた日常を少しでも取り戻した心持ちになれば、愛好者の一人としてうれしい。
毎日新聞 2011年5月14日 東京朝刊
毎日新聞 2011年5月14日 東京朝刊
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