◇腸閉塞、内科・精神科連携できず
茨城県土浦市で09年3月、長年精神科病院に通院していた女性(当時49歳)が腸閉塞(へいそく)などで死亡した。連日嘔吐(おうと)して内科診療所に行ったが、精神科の受診歴を理由に診察を断られ、精神科病院で応急処置したものの、体の病には気付いてもらえなかった。地元の精神障害者支援団体などは「精神障害と身体疾患の合併症患者を受け入れる総合病院があれば助かった可能性がある」と指摘する。
身体疾患のある精神障害者を巡っては、腸閉塞を発症した東京都東久留米市の統合失調症の男性(当時44歳)の救急搬送先が見つからず死亡した問題が明らかになったばかり。
土浦市の女性は20代半ばから、理由なく父親を激しくののしるようになった。精神科病院を受診し、向精神薬の服用を続けたが、症状は改善しなかった。
両親は09年1月、別の精神科病院に入院させたが母親(75)に何度も「帰りたい」と訴え、3月6日に一時帰宅。約1週間後、女性が嘔吐し、2、3日たっても続いた。母親は3月半ばに内科診療所に連れて行った。
母親が医師に既往症を説明すると「精神科にかかっていた患者さんは分からないことがあるので診察できない」と言われた。母親は救急病院の受診も考えたが、精神障害者支援団体の仲間から「あそこは精神科の患者を断る」と聞いていたため見送ったという。
嘔吐は1日2、3回になり、母親は3月20日「体の症状を診てくれるか分からないが、もうここしかない」と女性が入院していた精神科病院に診察を頼んだ。精神科医に吐き気止めの処置をしてもらったが、病名の説明はなかったという。
21日夜、女性が自宅のトイレに入ったまま出てこないため、母親が見に行くと倒れていた。救急搬送されたが病院で間もなく息を引き取った。死因は腸閉塞と多臓器不全。母親は「内科の症状を診てくれる病院があれば、よくなっていたかもしれない」と悔やむ。
女性が最初に訪れた診療所の医師は「記録がないので詳しい経緯は分からないが、症状をうまく伝えられない精神障害者の場合は診察しない」と説明する。入院していた精神科病院の院長は「精神科医が身体疾患を診るのは非常に難しい。精神科病床のある総合病院があればよかった」と話す。
女性を支援してきた茨城県精神保健福祉会連合会の中川正次会長(80)は「精神疾患があると一般診療科に受け入れられにくい。結果的に手遅れになってしまった。せめて精神科病院と一般病院の連携がスムーズだったら」と言う。
精神科病床のある総合病院の所在地について、日本総合病院精神医学会が07年に調査したところ、国が入院医療の体制を整備するため全国の市町村を367地域に分けた「2次医療圏」のうち、40都道府県の126地域(34%)で一つもなかった。茨城県内には2カ所のみで、土浦地域は08年3月末、国立病院機構・霞ケ浦医療センターが精神科病床を閉鎖し、空白地域になっている。【奥山智己】
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毎日新聞 2011年1月20日 東京朝刊
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