2011年4月8日(金)付
震災のずっと前だが、新橋の立ち食いそば屋で照明が突然消えた。電気を使いすぎたのか、ライスジャーを二つとも切れと店長が叫んでいる。なるほど、ご飯の保温より電灯や券売機が大切だ。納得してそばをすするうち、明かりと客足が戻った▼電気の使い道には優先順位があり、不要不急が多いほど節電の余地も大きい。そういえば、照明を落とした地下鉄の駅こそパリの明るさだと、仏語教師が懐かしがっていた。あちらが暗いのではなく、震災前の東京が明るすぎたのだ▼「ここ10年、けばけばしく外壁を照らす店舗が増えました。オフィスの照度も千ルクスと過剰。就寝時の闇との落差が大きすぎて、安眠できない人がいるほどです」。照明デザイナー、石井幹子(もとこ)さんの指摘だ▼石井さんは岐阜の世界遺産、白川郷(しらかわごう)を照らすにあたり、10ルクスを確保できる光源を用意した。それも万一の消火活動に備えた明るさで、通常は雪明かりの趣を損ねない1ルクス。都会とは桁がいくつか違う。夜道も3ルクスあれば、近づく人の悪意を10メートル手前で読み取れるという▼夏の大停電は、大節電で防ぐほかない。政府は、大きな工場やビルには25%、家庭にも20%の節減を求めるらしい。需給の見通しを日々伝える「電気予報」も検討されている▼町工場や病院を泣かせる計画停電ながら、あえて功を探せば節電意識の高まりだろう。節電とは皆が「そば屋の店長」になること。照明も空調もほどほどでいい。「輝ける都市生活」を、薄明の下で省みたい。
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