◆産品の購入や旅行で東北に支援を◆
東日本大震災の発生から間もなく1か月。今、日本中を覆っているのは「自粛」という名の重苦しい空気である。
各種芸術活動やスポーツイベント、伝統的な祭りまでが中止や延期になっている。
震災で多くの人が亡くなり、それを上回る数の人が行方不明のままだ。避難所で苦しい生活を強いられている人も数多い。
東京電力・福島第一原子力発電所の事故の影響で、首都圏でも電力不足が問題になっている。
こうした状況に配慮して、何事も控えめに、と考えたくなる気持ちは理解できる。
だが、それが行き過ぎると、生活の場で潤いがなくなり、国の活力まで失われてしまう。回り回って経済活動の足を引っ張り、被災地の復興にも悪影響を与える。
国全体が元気を取り戻すには、生活のリズムを普段通りにすることが肝要だ。節電に十分配慮しながら、過度な自粛ムードは排し、予定されたイベントは普段通りに実施する。それが大震災に負けずに、日本の復興を早める近道であろう。
◆花見や祭りが中止に◆
日本列島は桜の季節を迎えつつあるが、花見を自粛する動きが全国に広がっている。東京都は、桜の名所である上野公園など、都が管理する公園内での宴会を控えるよう求めている。
夜間にライトを照らし、酒宴で高歌放吟して醜態を演じるのは論外だ。しかし、昼間に家族や友人が集い、観桜することに何の問題があろうか。
各地で祭りの中止も相次いでいる。5月に予定されていた東京・浅草の三社祭や栃木県・日光東照宮の春季例大祭も、行事のほとんどが取りやめになった。
一方で、愛知県犬山市で4月2、3日に開かれた犬山祭のように、被災地の復興や犠牲者の鎮魂の祈りを込めて、予定通り祭りを開催した例もある。会場で被災者への義援金も集められた。
こうした形で開催することは、祭りの意義を高めることになるのではないか。
仙台市に拠点を置く仙台フィルハーモニー管弦楽団は、震災後、通常のコンサートを中止した。だが、先月末からは、仙台市内の街角などで、少人数による演奏活動を開始した。今後、被災地での演奏活動も計画している。
プロ野球の開幕は延期になったが、東京ドームも、照明や空調を調整するなど、節電に配慮した対応策を検討している。
困難な状況にあっても、文化や芸術、スポーツは人々の心を豊かにする。被災者への大きな励ましにもなるに違いない。
ただ、犬山祭や仙台フィルのようなケースは例外だ。自粛ムードはまだ根強く、これが消費行動に影響して買い控え・遠出控えにつながっている。
春の観光シーズンを迎えたのに、個人や団体の旅行が相次いで中止され、ホテルの宿泊予約もキャンセルが続出している。
特に東北地方では、直接、地震や津波の被害を受けなかった観光地や様々な産業にも、深刻な影響が及んでいる。大震災による直接の打撃に続く「二次被害」と指摘する声もあるほどだ。
こうした地域や産業を支援するにはどうすべきか。
◆首相が国民に訴えよ◆
菅首相のブレーンで経済学者の小野善康氏は、行き過ぎた自粛は復興の妨げになると指摘し、東北産品を積極的に購入する「バイ東北」運動を提唱している。
東北地方は、海や山の幸が豊富で、コメどころだ。郷土色豊かな伝統工芸品なども多い。国民が積極的に購入すれば、かなりの経済効果が期待できよう。
自粛ムードの一掃には、菅首相が先頭に立つことだ。
過剰な配慮をやめ、通常の生活を取り戻すよう国民に呼びかけるべきである。
◎開催に影響の出た主な行事
4月
プーシキン美術館展(横浜)見合わせ中
「印象派の誕生」展(広島)中止
原爆を視る1945~1970展(東京)中止
福岡城さくらまつり 武者行列など中止
観桜ナイター(大阪)中止
桜の通り抜け(大阪)ライトアップ中止
5月
浜松まつり 中止
神田祭(東京)神輿の担ぎ出しなど中止
日光東照宮春季例大祭 流鏑馬など中止
三社祭(東京)神輿の担ぎ出しなど中止
8月
東京湾大華火祭(東京・晴海)中止
(2011年4月7日01時16分 読売新聞)
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