Sunday, April 10, 2011

04/04 asahi.com 天声人語

2011年4月4日(月)付
 東北を代表する川といえば日本海に注ぐ最上川と、岩手県を南流して宮城県石巻市で太平洋に出る北上川だろう。その北上川は全長249キロにおよぶ。こんな一首がある。〈川幅の太さのままに海となる北上川の長き圧力〉高橋みずほ▼だが大津波は、その滔々(とうとう)たる「圧力」を押し戻して、川を50キロもさかのぼっていた。分析をした東北大教授によれば、国内に記録が残る津波の遡上(そじょう)は十数キロぐらいが多い。数字は、今回の地異の激しさを物語る▼被災地を歩くと津波の届いた高さに驚く。役場の支所や学校など、安全なはずの指定避難所を各地でのみ込んだ。北上川河口にあった支所は想定された津波の最高水位より高くに立っていた。しかし全壊し、身を寄せた49人のうち助かったのは3人だけだった▼隣の南三陸町では、3階建て、高さ11メートルの堅固な防災対策庁舎の丈を軽くこえた。屋上でフェンスにしがみついた多くの職員が流されていった。赤い鉄骨だけを残し、漁網やブイがからみついたその廃虚が痛々しい▼地震翌日の小欄で引いた寺田寅彦は、日本の自然には「慈母の愛」と「厳父の厳しさ」があると述べている。慈母とは、たとえば豊かな幸を育む三陸の海であろう。だが厳父と呼ぶにはこの天災は酷に過ぎる。手加減なしの折檻(せっかん)さながらだ▼〈やはらかに柳あをめる/北上の岸辺目に見ゆ/泣けとごとくに〉啄木。被災地にはなお悲嘆と慟哭(どうこく)がやまない。いのち萌(も)える春よ、どうか慈母の優しさでみちのくを包めよ。

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