Sunday, April 10, 2011

09/04 asahi 天声人語 - dancers saves the town

2011年4月9日(土)

 炭鉱住宅のつましい夕餉(ゆうげ)。フラダンサー募集の掲示に心が動く少女(蒼井優)を、母親(富司純子)がきつく諭す。「こっだ東北の田舎に、なじょしたらハワイなんかできっか」。映画「フラガール」の舞台は、1960年代の福島県いわき市だ▼斜陽の炭鉱は、温泉利用のレジャー施設「常磐ハワイアンセンター」に地域の明日を託した。坑内員の娘らも踊りの練習に励むが、閉山近しを思わす新事業の準備は、何かと白眼視された▼東京から来たダンス講師が訴える。「この子たちはヤマを救うため、立派にプロのダンサーになりました」。こうした情熱が炭鉱街をまとめ、「東北のハワイ」は成功した。後身のスパリゾートハワイアンズは年150万人を集める▼そこを震災が襲い、50キロ先の原発事故が追い打ちをかけた。閉山時以上とされる危機を受け、休業中のフラガール約30人が近く、首都圏や東北各地を回るという。全国巡業は開業前の宣伝以来で、被災地の再生を誓い合うステージになる▼ボタ山を行楽地に変えたのは、このままでは家族も地域も沈むという危機感だった。今、石炭衰退に代わる試練は放射能の風評。毎度回されるエネルギー政策のツケに、福島の苦渋を思う▼震災の傷を埋めるには、産炭地興しの何倍かのパワーが要る。その源泉は家族愛や郷土愛だろうが、ダンスの先生にあたる「よそ者」も貴い。そして誰より、地域や国の将来が己の人生に重なる若い力。復興の最前列で踊った娘たちのように。

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