原発事故で「日本」というブランドがすっかり傷ついた。「安全」「清潔」「ハイテク」……海外から見た日本の良いイメージだったが、「放射能汚染」という黒雲でまるで見えなくなってしまった▲「日本」ブランドが落ち込むとともに、「日本料理」もイメージダウンした。「ヘルシー」さがうけて世界中で和食ブームだったのに、各国で日本料理店の客足が落ちた。回転ずしの店頭には「ネタは日本から輸入していません」という張り紙も▲だが、ここにきて海外でも「立ち上がれ日本食」の動きが出てきた。場所は、600から800の和食飲食店があるという香港。まずラーメン業界が口火を切り「万人 食 拉麺(ラーメン)」(みんなで食べよう、ラーメン)キャンペーンを始めた▲ラーメンは中国の麺料理が原形だが、中国人は日本料理だと考えているのだ。だから日本で原発事故が起きて日本のイメージが悪化すると、香港の人々はラーメンに対する食欲が減退する。その結果、零細なラーメン店業界は打撃を受ける▲日本料理店や居酒屋などの業界も「愛 日本料理」運動で続いた。香港の和食食材はもともと九州方面から来ているが、地元の消費者にとっては九州も東北も同じ日本。不安をぬぐい去るために、すしの試食イベントや価格割引などで和食のイメージアップを図る。行政当局も中小企業優遇融資制度などで支援するそうだ▲さて、肝心の日本である。菅直人首相がG8サミットで「最高度の原子力安全」と言った。言葉が明確でも、これから結果をだせなければ信頼は取り戻せない。日本ブランド回復は、日本だけの問題ではない。
毎日新聞 2011年5月30日 東京朝刊
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