正岡子規の忌日(9月19日)を糸瓜(へちま)忌というのは、その辞世<糸瓜咲て痰(たん)のつまりし仏かな><痰一斗糸瓜の水も間にあはず><をとゝひのへちまの水も取らざりき>の3句にちなんでという。ヘチマの水は痰や咳(せき)封じの呪力があるといわれていた▲先日も扇風機の話題で触れた子規の闘病だが、その病室の前にはヘチマ棚があった。妹の律は病床の子規のためにその視線に合わせて庭の草花を育てる。そしてヘチマ棚は身動きもままならぬ子規が上向きで寝たまま目を楽しませることができるように作られていた▲耐えがたい暑さだった夏の病床で、日差しをさえぎってくれた緑の棚だ。そのヘチマや、より育てやすいゴーヤやアサガオといったツル性植物が今また節電の夏に見直されている。そう、「グリーンカーテン」のブームだ▲ツル性植物を窓の外に張ったネットなどにはわせ、日差しをさえぎるとともに植物の出す水蒸気による蒸散作用で気温を下げるグリーンカーテンだ。もともと地球温暖化やヒートアイランド現象への対策として注目され、数年前から各地で静かなブームとなってきた▲そこに今夏の節電である。園芸店の多くではゴーヤの苗が入荷してもすぐ売り切れる状態となった。住民に苗を無料配布する自治体も多い。震災の被災地からも仙台市の仮設住宅でボランティアらによるグリーンカーテン作りが行われたとのニュースも伝わってきた▲個々の家ばかりでなく街全体の気温も抑えるというグリーンカーテンだが、目にも涼しげな緑ならではの癒やし効果を子規兄妹に学ぶのもいい。<棚の糸瓜思ふ処(ところ)へぶら下がる 子規>
毎日新聞 2011年6月2日 東京朝刊
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