Friday, June 10, 2011

09/06 余録:幕末から明治に来日した西欧人は…

 幕末から明治に来日した西欧人は、風呂の混浴とともに街中で裸に近い姿をさらす日本人に眉をひそめた。ある米国人女性教師は、半裸の人々を見て「この国にはいったい文明が存在するのか」と疑いあきれる外国人旅行者の姿を記している▲だが彼女によれば、そういう人もすぐ半裸の人々の間に行き渡っている行儀作法に気づき、日本の旅館の清潔さや心地よいサービスに感心したという。そこには西欧とタイプは違うが、高い文明が存在しているのを知るのだ。裸を恥じないのはその文明の一面だった▲江戸時代、高温多湿の夏を過ごす日本人にとって男女とも半裸での労働やくつろぎは当たり前だった。明治になって外国人の目をはばかり、裸姿は禁じられる。欧州の衣食住が「文明」の基準とされた日本の近代化である▲こうして盛夏も冷涼な欧州生まれの背広姿で働くことに慣らされた日本人だった。エアコンの登場で以前のような汗まみれは免れていたのが、この間の地球温暖化対策に加えて今夏の電力不足だ。はてさて明治以来の夏の服装革命となるのか、スーパークールビズだ▲職場でのポロシャツやスニーカー、アロハや無地TシャツもOKという環境省の音頭取りはご存じの通りだ。各地の自治体で積極的に導入が進む一方、二の足を踏む企業も多い。だがここに来て一部大手銀行でポロシャツにチノパンでの勤務を認めるところも現れた▲いくらスーパーでも半裸姿には戻れないが、節電を機会に日本の夏にふさわしい新たなライフスタイルを探るのも楽しい。今ならばどんな外国人もそれを高度な文明の営みだと直ちに認めよう。
毎日新聞 2011年6月9日 東京朝刊

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