菅直人首相がしばしば使う言葉の一つに「つまりは……」がある。「要するに」という意味での「つまり」。若い頃からの口癖という。すぐいら立って「イラ菅」の異名を取る首相だ。つべこべ言わず早く結論を、というせっかちな性格が表れているようだ▲ところが、首相になってからは何かを説明する際に「ある意味で」と前置きすることが、がぜん増えた。こちらは断定や明言を避ける言葉。そこに首相の自信のなさが見て取れる気がするがどうだろう▲そう言えば、べらんめえ調で歯切れがよいのが売り物だった麻生太郎元首相も国会答弁では「何となく」とか「基本的には」を多用したものだ。これも物事をアバウトにくくり、具体的に言質を取られたくない時に使いたくなるフレーズである▲しかし、何といっても政界全体で最近、乱用されているのは「しっかり」だ。はしりは安倍晋三元首相だろう。06年秋、首相就任直後の記者会見で「しっかりと教育再生改革に取り組んでまいりたい」をはじめ26分間に32回、「しっかり」を繰り返し、それがニュースにもなったからご記憶の人も多かろう▲安倍氏に限らない。今や菅首相も枝野幸男官房長官も他の与野党幹部も「しっかり原発事故に対応する」「わが党としてしっかりまとまって」と日々乱発している。むしろ「しっかりする」自信がない時ほど用いていると思えるほどだ▲「しっかり」は「抜け目なく」という意味で使われることもある。手元の新明解国語辞典にはその用例として「ろくに働きもせずに給料だけはしっかりもらう」とある。政治家の「しっかり症候群」はしっかり監視しよう。
毎日新聞 2011年5月29日 東京朝刊
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