Friday, June 10, 2011

21/05 余録:「我等は角力道の弊風…

 「我等(われら)は角力(すもう)道の弊風、日に長ずるを見て黙視するに忍びず。力士をして左の誓約をなさしむ」。明治43(1910)年1月、友綱親方名で幕内11力士の署名押印を集めて結ばれた誓約書の冒頭だ。さて何の「約」か、以下を見よう▲「一、力士たるの精神を発揚し、其(その)本分を守り、角力道の弊風を矯正する事/一、土俵上の勝負は神聖に決すべく、苟(いやしく)も私情に亘(わた)り、情実に流れ、見苦しき行動は為(な)さざる事/……天地神明に誓い、必ず違背致すまじく」。お分かりだろうか。八百長禁止の誓約だ▲当時は「引き分け」があったため情実相撲が多く、客席から「八百長!」の怒号が飛び交うありさまだった。見かねたのは角界に影響力をもつ伯爵・板垣退助で、友綱親方を動かして力士に勝負の神聖を誓わせたのである▲さて今日の「角力道の弊風」は矯正されるのか。大相撲の八百長問題を調査してきた特別委員会は先ごろ最終報告書を日本相撲協会に提出し、これまで2度の報告書で25人の関与を認定した調査を終えた。いわばこれ以上の疑惑は立証不能という形での幕引きである▲すっきりせぬファンの気持ちをそれでも久々に盛り上げたのはやはり土俵だった。異例の無料公開、賜杯も懸賞もない技量審査場所だ。しかし史上タイの7連覇に手をかけた白鵬、新しい力の台頭を感じさせた魁聖の快進撃--何といっても場所あっての相撲なのだ▲相撲の神様がいるのは親方衆の会議や有識者の委員会ではなく、やっぱり土俵である。勝負の神聖を裏切らぬ相撲、それを次の場所こそ被災地のファンにもテレビでちゃんと見てもらえるようにすることだ。
毎日新聞 2011年5月21日 東京朝刊

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