Friday, June 10, 2011

08/06 余録:その昔、コンゴの人は大祭司チトメが…

 その昔、コンゴの人は大祭司チトメが病死して霊力が失われると大地は死滅すると信じた。では彼が病に倒れそうになると、どうしたか。その後継者がこん棒を手にチトメの家を訪れて殺したという。フレーザーの「金枝篇」にある話である▲それによると、かつてのアフリカの部族などでは霊力の衰えた王は部族全体を危うくすると信じられた。このために白髪が生えただけで殺される王もいたという。ついには衰えが表れる前に取り換えようということになる▲なんとフレーザーは1年ごとに王を殺しては次の王を立てる土地もあったと述べている。そんなことで王のなり手がいたかどうかは知らない。だが、こと現代日本では次から次に1年王が現れる。こちらはそれぞれ1年間で本当に霊力をすべて使い果たしての交代だ▲実は1年前に菅政権が発足した時も「金枝篇」にふれ、くれぐれも短期政権の轍(てつ)を踏まぬようにご忠告申し上げている。なのにというべきか、案の定というべきか。その退陣時期や後継の与野党大連立構想をめぐる政界の喧々囂々(けんけんごうごう)たる騒ぎの中で迎える1周年である▲だが驚くべきは、それが1年前には予想もつかなかった大震災の惨禍のさなかの騒動という点である。国民がどうなろうと、世がどうあろうと、まるで歳時記の年中行事のように繰り返される政権交代劇だ。首相の霊力は1年もたず、後継候補はこん棒に手をかける▲何より深刻なのは、名の挙がるどの後継候補の霊力も政治に再生の息吹を与えるほど強いようには見えないことである。そう、「1年王」を繰り返すうちに日本政治の霊力が尽きかけているのだ。
毎日新聞 2011年6月8日 東京朝刊

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