Friday, June 10, 2011

01/06 余録:つぼに赤、黄、黒の玉が計90個入っている…

 つぼに赤、黄、黒の玉が計90個入っている。うち赤は30個だが黄と黒の数は不明だ。黄1個と黒59個かもしれないし、逆もありうる。このつぼでくじをする場合(1)赤を引けば賞金(2)黒を引けば賞金--あなたはどちらのくじを引きたいか▲はて前に似たような話を……と思った方、そう、以前紹介した数理経済学者のエルズバーグ博士の実験の別バージョンだ。実際(1)(2)どちらもくじを引く者には同じなのだが、実験では多くの人が当選確率を知る(1)を選んだ▲最近よく言われる「リスク」は(1)のくじのような当たり外れの確率の分かっている選択にかかわる危険だ。これに対し(2)のくじのように起こることの確率すら分からぬ事態については「不確実性」といわれる。人は計算できるリスクは受け入れても、不確実性を嫌う▲さて、この先も何が起こるか誰も分からぬ原発事故、専門家ごとにリスク評価の違う放射能災害、将来の暮らしの不安に心身共に疲れ切る被災者--どの局面を見てもまさに不確実性の渦巻く震災日本である。ここは不確実性封じ込めに政治が結束を見せる時だろう▲と思ったら仰天、政治自らが不確実性の大渦となりかねぬ内閣不信任案提出の動きだ。呼応する与党の一部もあると聞けば「政治は一寸先が闇」という権力闘争の不確実性が思い浮かぶ。この危機にあって日本政治の中枢に生じる闇を被災者や外国の人はどう見るのか▲菅政権の無能を野党はののしる。仮にその通りでも、今は不確実性の渦のただ中だ。有能か無能かすら分からぬ未知の政権より、よく見知った無能な政権の方がリスク計算できるだけましではないか。
毎日新聞 2011年6月1日 東京朝刊

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