Sunday, May 1, 2011

29/04 天声人語

2011年4月29日(金)付

 英国のウィリアム王子とケイト・ミドルトンさんがきょう結婚式を挙げる。慶事の記事を読みながら皇后陛下の詠まれた歌が胸に浮かんだ。〈かの時に我がとらざりし分去(わかさ)れの片への道はいづこ行きけむ〉。戦後50年が過ぎた年の一首である▼つたない解釈を加えるなら、「あの時に選ぶことのなかった分かれ道の片方は、どこへ通じていたことでしょう」となろうか。人生一般の感慨とも読めるが、民間から皇室に入られた皇后さまの作と思えば、味わいはひとしお深い▼ケイトさんも「庶民の王室入り」で、英国内は祝福の声がしきりだという。今も階級意識の強いお国柄だけに格好の話題らしい。報道は過熱ぎみ、経済効果の試算は840億円と聞いて、半世紀前のミッチーブームを重ね合わせる方もおられよう▼1993年の6月のこと、欧州取材の機上で隣席の英国紳士に「日本から?」と聞かれた。イエスと言うと「おめでとう」と握手をされた。戸惑っていると「ロイヤルウエディングだよ」。皇太子さま、雅子さまを祝してくれたのだった▼自国、他国を問わず、英国人は「王室ずき」だ。総批評家と言われ目は肥えている。喝采がブーイングに変わりやすいのが、かの王室の宿命らしい。新婦には、甘いばかりのシンデレラ物語ではない▼人は誰も、ありえたかも知れない別の人生を「分去れ」のかなたに見送って歩んでいく。ケイトさんもまたしかり。王子と2人、手を携え合う前途を、遠くより祝福申し上げる。

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