Saturday, July 2, 2011

02/07 天声人語 - 「家の作りようは夏をむねとすべし」


2011年7月2日(土)付

こう暑くては猫といえどもやり切れない、とぼやくのは漱石のあの有名な「吾輩(わがはい)」だ。皮を脱いで肉を脱いで、骨だけで涼みたい。せめてこの毛衣(けごろも)を洗い張りにしたい、など色々と並べる。団扇(うちわ)を使ってみたいが握ることができない――と愚痴るのは、おかしくもお気の毒である▼明治の猫も暑かったろうが平成の人間も暑い。この時期としては記録的な猛暑が各地で相次いだ。夏をつかさどる炎帝(えんてい)の顔見せ挨拶(あいさつ)だろうか。今年も手ごわそうで、九州南部はこれも記録的な早さで梅雨が明けた。そして節電の夏が始まった▼東京、東北電力管内できのう、「電力使用制限令」が発動された。企業など大口需要家に15%の節電を求める強制措置だ。語感が「戒厳令」や「灯火管制」に似ているからか、どこか夏を迎え撃つ気分になる▼家庭の15%は努力目標となる。早い話、大食いのエアコンを止めれば達成できる。だが心頭滅却の我慢は長続きしないし、体に良くない。ここは無理せず、こまかい節約を積んで贅肉(ぜいにく)を落としたい▼「家の作りようは夏をむねとすべし」と書いたのは「徒然草」の兼好法師だった。耐え難いのは暑さ。冬の寒さは何とかなる、と。卓見が身に染むが、その高温多湿はまた様々な消夏法を生み出してもきた▼エアコンの剛腕に小さくなっていたそれら古いものが、相次ぎ復活の兆しだという。ぼやきたい暑さにも潤いはあろう。古きを温(たず)ねて涼を知る。「温故知涼」の新しい四文字を夏の座右に置くのもいい。

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