2011年5月21日(土)付
昭和おやじの勝手をいえば、高校野球にドームと人工芝は似合わない。時々刻々、空模様や日の高さで変わる甲子園の表情こそが、夏の熱戦の後景として球史を彩ってきた。胸に迫る場面が炎天下とは限らない▼55回大会の作新学院―銚子商。8回から降り始めた雨が激しさを増す延長12回、作新の「怪物投手」江川卓の夏は押し出し四球で終わる。〈わたしは雨を愛した詩人だ/だがわたしは江川投手を愛する故に/この日から雨が/きらいになった〉。サトウハチローが贈った詩の一節だ▼カクテル光線も激闘に花を添える。準々決勝を1日で消化していた頃、第4試合がもつれてナイターになるのが好きだった。例えば56回大会の鹿児島実―東海大相模。1年生三塁手、原辰徳が輝いた相模だが、延長15回で力尽きた▼どちらの試合も、同世代として熱くなったのを覚えている。前者は下校路の電器屋で、後者は夕食時の家で見た。甲子園の熱はかように、もっぱら午後の時間帯に発散されたように思う▼今年の93回大会、決勝のプレーボールが午前9時半と決まった。例年通り昼過ぎからだと、テレビ観戦がエアコン使用のピークに重なるためだ。ナイターを避けようと、準決勝までの第1試合も午前8時に早まる▼選手もファンも勝手が違うが、これも節電のため。平均的な試合は2時間20分前後なので、史上初の「午前の決勝」は昼時には終わろう。みんなが元気になりたい夏、とっておきの感動は少し急ぎ足でやってくる。
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