2011年5月18日(水)付
辞書によれば、〈溶ける〉とは固形物が液状になることだ。類語の〈とろける〉には、心のしまりがなくなる/うっとりする、の意味が加わる。「ろ」が入るだけで随分まろやかだが、間違って「炉」を添えると、〈溶ける〉が牙をむく▼「メルトダウン」は軽々しく使える言葉ではなかった。なにしろ、原子炉の燃料棒が自らの熱で溶け落ちる悪夢である。燃料の損傷という軽い響きも、炉心溶融と正直に書けば、ただならぬ気配に腰が浮く▼福島の事故で、1号機のメルトダウンは津波の数時間後に始まっていたという。東京電力の当初の読みよりずっと早い。隠したなら論外、知らずにいたのならなお怖い。やはり運転中だった2、3号機の燃料も溶けて発熱中らしい▼競うように暴れた末、毒を吐き、枕を並べて熱に浮かされる1~4号機。熱冷ましの注水が汚染水を生み、新たな注水を不要にするための作業には強い放射線が立ちはだかる。放置すれば破局、策を講じたら次なる試練というイバラの道だ▼長く稼いでくれた4兄弟に、安らかな最期をどう用意するか。親にあたる東電が改めた工程表にも、確たる道筋はない。明日をも知れぬ病状と、「来年早々の安楽」の間がどうにも描きづらい▼「孝行息子」が最後にしでかした悪さを前に、政府と東電は保護者の責任を押しつけ合うかのようだ。ここは双方が死力を尽くし、税金と電気料金へのツケ回しを堪(こら)えるのみだろう。国がとろけようかという時に、官も民もない。
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