2011年5月16日(月)付
再び栗林中将にご登場いただく。映画「硫黄島からの手紙」の冒頭、指揮官として島に着いた中将(渡辺謙)が、部下をぶつ上官を制する場面だ。「兵隊には十分な休息を取らせるように。見たまえ彼ら、まるで月から来たみたいだ」▼戦中、ガダルカナル島など南方戦線での日本軍の犠牲は、戦闘より飢餓と病気による衰弱が多かったという。補給や増援が途絶えたためだ。現場を大切にしなければ、どんな作戦も失敗する▼まいど戦争に見立てるのは気が引けるが、福島の原発で続く激闘で、東京電力の協力企業が雇う60代の作業員が亡くなった。現場で働き始めて2日目、事故を収束させる総力戦で初の「戦死」である▼倒れた時間帯に医師はおらず、遠方の病院に運ばれたそうだ。死因は持病というが、張り詰めた仕事は心臓に障る。病を押して働くには、使命感だけで語れぬ事情もあろう。東電社長の「日当」20万円は無理でも、危険に見合う報酬、救急態勢は必須だ▼非常時を理由に、被曝(ひばく)などの安全ルールが緩まり、作業員の急募は中高年を軸に九州にも広がる。大阪の日雇い労働者は、「宮城でダンプ運転」の求人に誘われ、この原発で働いていた▼新たに大量の汚染水が見つかるなど、戦況は険しい。かき集められ、雑魚寝の体育館から戦場に赴く人々には、「月から来た」ほどの疲労が積もっていよう。彼らの双肩が担うものと、処遇の落差に暗然となる。いま求められるのは戦略と後方支援。美談や英雄ではない。
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