Saturday, May 21, 2011

15/05 天声人語

2011年5月15日(日)付

 東京・芝浦の有名ボウリング場が、震災で休んだまま、40年近い営業を終えた。その一角、駐車場のくすんだ外壁に目を凝らすと、日焼けの名残のごとく「JULIANAS」の文字跡がどうにか読める▼20年前、この地にジュリアナ東京が開業した。社会現象とまで言われながら、店は3年3カ月の泡沫(うたかた)に終わる。跡地にできたスポーツ品店も今年初めに閉じ、殺風景な扉が残るだけだ▼商社の日商岩井(現双日)が外資と手がけた大型ディスコは、都築(つづき)響一さんの『バブルの肖像』によれば「一種の仮設祭礼空間」だった。「ひと晩だけ、いつもより少しだけ大胆に肌をさらし、音楽に乗ることさえできれば、そこではだれもが女王様になれた」▼倉庫を改装したフロアでは夜ごと、肉感的な装いの女性客が、通称ジュリ扇(せん)を手にお立ち台で身をくねらせた。バブル経済の象徴のように語られるが、株価や景気はとうに下り坂で、実際はバブルの焼け跡に咲いたあだ花だった▼続く時代は失われた10年と呼ばれた。財政と金融の不全に政治の混迷が加わり、今に至る20年が無為に消えたとの見方もある。貧しくとも静かな生活を望んだところで、前提となる平穏や安全が揺らいでいる▼あの不夜城の、ひりつくような熱狂の中に本物の幸せは見つからなかった。かといって自分の殻にも閉じこもれない。ならば目下の複合災害を、せめて大切なものを取り戻す契機にしたい。足るを知り、助け合う生き方。バブル以前の忘れ物である。

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