Saturday, July 9, 2011

09/07 春秋



2011/7/9付
 ドイツ料理にメットと呼ぶ豚の生肉料理があるそうだ。豚をナマで、と聞けば日本人は驚くが、無菌の新鮮なやつをミンチにして塩コショウを振る。タマネギのみじん切りを添えてパンに載せて食べれば、ネギトロみたいに美味らしい。
▼食文化とはかくも多様なものだから、あれこれ文句を言われる筋合いはない。が、それでは済まぬのが役所の立場だ。ユッケの集団食中毒で火がついた問題がレバ刺しにも及んでいる。厚生労働省は飲食店が当面、牛の生レバーを供さないよう通知を出した。審議会で年内に提供禁止を決めるかもしれないという。
▼牛刺しやユッケについては罰則付きで厳しく規制する方針が一足早く決まったし、国の対応を待たずレバ刺し追放の条例案づくりに乗り出した県もある。これでもう、ちまたの店ではおいそれとその手の料理は出せなくなろう。食の安全や健康にすこぶる敏感な時代が生み出した、かつてない肉騒動というべきか。
▼考えてみれば、魚の造りだって大胆な料理ではある。ひたすら安心を求めるなら、やめたほうがいい食べ物が世にはあふれている。されど微妙なのが、食というものだ。でなければドイツでも、かのメットを食べ続けてはいまい。レバ刺し禁止令が発せられ、法外な値のヤミ刺しがはびこらなければ、いいのだが。

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