きょうから10日まで、東京都台東区の浅草寺境内では「ほおずき市」が開かれる。作家の久保田万太郎は「四万六千日の暑さとはなりにけり」と詠んだ。梅雨がそろそろ明けて夏本番に突入する時分である▲10日に観音様にお参りすると4万6000日分の御利益があるとされる。むかしは雷よけの赤トウモロコシが売られたらしいが、いつしかホオズキの市となった。いまの品種は朱色が美しい。かつてのは実の色が青かったそうだ▲ホオズキは鬼灯、酸漿などと漢字では表記する。鬼灯はちょうちんのこと。ホオズキをお盆の精霊棚に供えご先祖様をお迎えするちょうちんに見立てたものらしい。一説には、ホオズキの名は観音様の教え(法)を聴くのが大好きなこと、法好きからきたという▲東京ではこの時期、浅草寺だけでなく各地でほおずき市がひらかれるようになった。浅草寺の50万人などという人出は別格だが、それぞれににぎわい、定着しつつある。関西は古寺名刹(めいさつ)が多いがほおずき市のあるのを聞かない。東は東、西は西。狭いようでも日本は広い▲ホオズキのなかには非常に美味なストロベリートマトというのがあって、有名女優さんの好物だそうだが、ほおずき市のは食するものでない。口の中でタネを抜いてクチュクチュ鳴らす。上手な子がいてうらやましかったものだ。懐旧は果てもない▲懐旧というほど遠くないが、昨年の今ごろは参院選の真っ最中だった。首相を鳩山由紀夫氏から菅直人氏に代えたばかりの民主党は惨敗。以後、迷走に次ぐ迷走だ。この1年はなんだったのか。鬱を散じにほおずき市にでかけてみるとしよう。
毎日新聞 2011年7月9日 東京朝刊
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