Saturday, July 9, 2011

09/07 天声人語

 湿気と暑さにいささか疲れぎみの日々、寒~いダジャレをひとつ。「このウナギは養殖かなあ」「ウナギは和食だ」。思案する方がおられるかも知れないが、いえ解説するほどの代物ではありません▼で、きょうは洋食ならぬ和食の話。ユネスコの世界遺産に、今度は「日本食文化」で手を挙げようと準備が始まった。めざすのは世界無形文化遺産で、祭礼や伝統芸などのほか食文化も対象になる。農水省が音頭を取っている▼農水省といえば4年前、海外の日本料理店に「お墨付き」を与える制度づくりに着手した。面妖な和食を出す店が多いのを憂えてのことだった。だが国内では「政府の仕事か」とたたかれ、欧米からは「スシ・ポリス」がやって来ると警戒され、結局ついえた。世界遺産なら波風も立つまい▼日本料理という「極東のエスニック」の繊細と洗練は名高い。「食膳は、このうえなく精妙な一幅の絵に似ている」と評したのはフランスの思想家ロラン・バルトだった。油脂を控えて素材を生かす。その「澄んだ濃密」の味わいを世界のグルメは称賛する▼これまでにフランスの美食術やメキシコの伝統料理、地中海料理が登録されている。秋には韓国の宮中料理も登録の見通しだという。仲間入りの実力に不足はないと思われる▼四季の織りなしも日本料理の魅力となろう。〈美しき緑走れり夏料理〉星野立子。氷に載せた白身魚の洗いだろうか。それとも冷(ひ)や奴(やっこ)? めざすという2年後の登録成就を楽しみに待つ。

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