Monday, March 21, 2011

17/03 asahishimbun - 天声人語

2011年3月17日(木)付

 行く川の流れは絶えずして……の「方丈記」は、達意の筆で無常をつづる。著者の鴨長明(かもの・ちょうめい)は平安末から鎌倉初期の人物。若いときに竜巻や飢饉(ききん)、地震といった災害を続けざまに体験した▼1185年の元暦(げんりゃく)の大地震を克明に記している。「山はくづれて河を埋み、海は傾きて陸地(くがち)をひたせり」「家の内に居れば、たちまちにひしげなんとす。走り出づれば、地割れ裂く」。そして、様々な天災のうちでも「恐れの中に恐るべかりけるは、ただ地震(なゐ)なりけり」と書き残した▼その長明が「なごり、しばしは絶えず」とおびえた余震が、いま、東日本を不気味に揺さぶっている。テレビ映像はたびたび途切れて、緊急地震速報に変わる。長野と静岡では震度6強の地震が起きた。そんな中で原発が煙を噴き、被災地は雪に凍える▼悲嘆と恐怖が被災地を包み、首都圏は停電の不便を忍ぶ。西日本とて不安に包まれていよう。だが勇気づけられる話も多く聞く。大げさな行為でなくとも、たとえば声欄にも、胸に灯のともるような投書が届く▼帰宅難民であふれた東京で、配られた毛布をお年寄りに譲った若い女性。タクシー待ちの長蛇の列に、「しているだけで少しは暖かいから」とマスクを配っていた女性2人。ささやかな、ゆえに尊い、分かち合いである▼「人とはなんて美しいものだろう、人が人であるときには」。古代ギリシャにこんな名文句があった。黙々と耐える被災地。一条の光さえ見えない方も多かろう。近くからも遠くからも、私たちは「人である」ことで励ましたい。

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