これは未曽有の国家的危機である。乗り切るためには、政府と国民、企業と市民、それぞれの「信頼」という綱を、しっかり結び続けるしかない。
東京電力の福島第一原子力発電所の状態が深刻の度を増している。
1号機と3号機で水素爆発が起きたのに続き、2号機では爆発が、4号機では火災があった。
2号機は、原子炉を覆う格納容器につながる圧力抑制室が壊れたようだ。強い放射能を帯びた物質が外に出るおそれがある。
■危険な作業支えよう
4号機は11日の地震のときには定期検査中だった。プールで保管中の使用済みの核燃料の冷却が不十分となり、燃料棒が壊れた疑いもある。
ひとつの発電所内にある四つの原子炉がいずれもまだ安定せず、放射性物質が漏れているらしい。極めて厳しい状況といえる。
放射性物質が大量に、広範囲に外に出ることを何とかして食い止める。これが最も大切だ。
厳しい条件の下、原子炉を冷却するための努力が懸命に続けられている。困難かつ危険を伴う作業ができるだけうまく進むよう、全力を挙げて支えてゆきたい。
発電所内で高い放射線量が検出され、作業員が退避する事態もあった。安全を守りながら進める必要がある。
電源が得られず、ポンプなどの能力にも限りがあり、なかなか決め手となる方法が見いだせないのが現状だ。知恵と力を結集してほしい。
2号機の事故を受け、菅直人首相は改めて半径20キロ以内からの住民避難を呼びかけるとともに、20~30キロの範囲の人たちに屋内退避を求めた。いつまで続くのか、不安が広がる。
原発周辺から集団避難を求められたのは約20万人にも及ぶ。不便を強いられる避難先での生活を支えるため、受け入れ先の自治体、地元住民の協力が欠かせない。
■国民信じ情報開示を
危機にあたって陣頭指揮をとるべきは、菅首相をおいて他にいない。国民の生命を守ることを最優先に、東電と一体となって難局に臨んでほしい。
首相はきのう東電本店に乗り込み、「あなたたちしかいない。覚悟を決めてください」と叱咤(しった)した。国民から見れば、その言葉はそのまま政府、そして首相自身にも当てはまる。
情報伝達の遅れなど、これまでの東電の対応に不信感を募らせる国民や政府関係者は多い。ここは、あらゆる当事者が心をひとつにして、危機を乗り切ることが肝心だ。
まずは政府と東電が密接に情報を共有し、指揮命令系統を一本化する必要がある。すでに協力を表明している国際原子力機関(IAEA)や米国など、海外の専門家の知見も広く求めたらどうだろう。
いま重要なことは、迅速で十分な情報の開示だ。
政府や東電はこれまで、ことあるごとに大丈夫だ、と強調してきた。国民がパニックに陥らないよう細心の注意を払う必要はよくわかる。
しかし、「政府は何かを隠しているのでは」との疑念を招けば、かえって国民の不安をあおりかねない。危機管理がうまくいくかどうかは、政府に対する国民の信頼にかかっている。
国民を信じてきちんと情報を提供しなければならない。
何が起きているのか、これからどんなことが想定されるのか、備えはどうなっているか、どう行動すべきか。
政府は事態の収拾に最善を尽くしつつ、さらに悪化した時をも想定して、対応策の準備を同時に進める責任がある。状況の変化に応じ、さらなる避難などが必要であれば、的確な指示を出すことだ。
■日本社会の復元力を
日本経済もまた、大震災に加え、原発ショックに襲われ、未知の次元に陥りつつある。
東京証券取引所では電力、電機など主力株が軒並み売り込まれた。日経平均株価は、史上3番目の下落率を記録した。
次々と見舞う想定外の事態に、企業や人々は心理的に萎縮している。悪循環を抑えなければならない。
日本銀行は金融市場の収縮を阻止するために計41.8兆円という史上最大の資金を供給する。経済がこれ以上混乱しないよう、あらゆる手をうつべきである。
私たちの忍耐力、問題解決能力、復元力が試されている。冷静に行動しよう。世界もそれを見守っている。
地震には物心両面でそれなりの備えがあった。停電をエネルギー危機ととらえれば、石油ショックを乗り切った経験もある。だが、壊れた原発からの放射能放出という事態は、日本にとって初めての試練だ。
日本の産業は情報、物流、人流、金融が高度に組織され、相互依存の供給体制を構築してきた。外から打撃を受けたときは、全体で補い合い、助け合って復旧に努める覚悟だった。
今は国民が我慢を引き受け、被災地への物資供給を優先させるときだ。押し寄せる水から逃げのびた人が、なお生命の危険にさらされている。
政府を先頭にして、打撃をくいとめようと懸命の努力が続く。最悪の事態を、なんとか回避したい。
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