2011年7月1日(金)
朝日俳壇でよくお見かけする兵庫県の足立威宏さんに次の入選句がある。〈原発と直線距離の寒さかな〉。震災後の作ではない。4年前に金子兜太氏の選で一席になった。「ズバリ分かる言い方」が選者の評だ▼足立さんは地図上で、福井県の原発銀座にコンパスを刺して回してみた。すると自宅の辺りが半径50~60キロの弧の上にあった。山河に遮られて道路や鉄道では遠い所も、直線だと近い。「寒さ」は心胆の寒さでもある。震災の後、各地の原発との直線距離に、同じ寒さを思う人は少なくあるまい▼佐賀県の玄海原発の運転再開をめぐって、海江田経産相が地元を訪れた。説明を受けて、県も玄海町も再稼働を容認する姿勢という。だが、原発との距離を案じる近隣自治体の人々は、どう聞いただろう。放射能は県や町の境界で止まってはくれない▼「安全性には国が責任を持つ」と大臣は言う。福島の事故による信頼失墜の自覚は、政府にないようだ。しかし知事は「安全性の確認はクリアできた」と応じた。少々物わかりが良すぎないか▼「お墨付き」の由来は、大名らが臣下に与えた領地保証の文書という。だがいまや、お上の保証は墨がかすれて頼りない。誰もが信ずべきものを見つけあぐねる中、拙速はさらなる不信を生もう▼〈原発の同心円に居て仰ぐおぼろの月のまどかなるかな〉。こちらは5月の歌壇に載った福島市の美原凍子さんの一首。18カ所の原発がある国に、18の同心円が、目には見えず同居している。
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