パトリシア・コーンウェルの推理小説『真犯人』で、主人公の女性検屍官 が語る。〈医学校時代によく言われたの。ひづめの音が聞こえたら、シマウマでなく馬を捜せって。一番ありそうな診断をしろってことね〉(相原真理子訳、講談社文庫)◆何もむずかしいことではない。教えられなくても、誰もがシマウマではなく、馬を捜すだろう。もしも列車内に煙が充満したなら――真っ先に捜すべき馬は「火災」でなくてはならない◆ひとつ間違えば大惨事である。JR石勝 線のトンネル内(北海道占冠 村)で特急が脱線炎上し、39人が病院に搬送された。JR北海道が警察からの通報で火災を把握したのは、列車が緊急停車して2時間もたってからであり、乗客には避難の指示さえ出されていない◆車両の不具合で煙が出ることもあり、乗務員は火災と思わなかったという。火災と故障では危険度において“暴れ馬”と“ポニー”ほどの違いがある。ひづめの音を聞いてポニーを捜す危機管理とはお寒い限りである◆「道産子」という言葉があるように、馬には縁の深い土地だろう。捜す動物を間違えてはいけない。
(2011年5月31日01時16分 読売新聞)
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