肝臓薬の広告文という。〈スモッグの街を突っ走り、先輩同僚の眼をムかせ、夜はハシゴの先に立ち、今朝もキッパリご出勤〉。作家の半藤一利さんが『昭和史 戦後篇』(平凡社刊)の高度成長期を扱った章に引いている◆感心するか、苦笑するか、いまの若い人の目にどう映るかは知らない。戦後の復興は、しかし、体内の全細胞が跳躍しているかのような広告文の若者たちが、各分野に群れ集うなかで成し遂げられたのはたしかだろう◆本紙の大型連載『昭和時代』(毎週土曜掲載)はいま、第1部として30年代を取り上げている◆先週は「太陽の季節」をテーマに、石原慎太郎、裕次郎兄弟に代表される戦後派青年の躍動ぶりを伝えていた。肝臓薬の青年も含め、裕次郎さんの愛称“タフガイ”の時代であったろう。現代とは社会構造が異なるものの、中高年の追憶にとどめておくには惜しい何かがその時代にはあるように思えてならない◆〈やりやがったな、倍にして返すぜ…〉。裕次郎さんのヒット曲『嵐を呼ぶ男』のセリフにある。天災よ、倍にして返すぜ――と、心組みはそうありたいものである。
(2011年6月1日01時37分 読売新聞)
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