Wednesday, June 8, 2011

30/05 編集手帳

 新宿駅西口の高層ビル群に、レストラン格付けで知られる仏ミシュランが注目する建物がある。全面ガラス張りで丸みを帯びた50階建てのビルは、直立した巨大な繭のようだ◆ミシュランが5月に発売した仏語版の新しい日本観光ガイドブックで紹介している。無機質なビル街で、表情を持つ斬新なデザインが、全国を取材したフランス人編集者の目に、エレガントだと映ったのかも知れない◆都内のおすすめスポットでは、築地、アメ横、六本木ヒルズなど定番の名所に加え、新宿ゴールデン街、かっぱ橋通りといった渋い場所も選ばれている。外部の目を通せば、普段着の町も意外な魅力を発していると教えられる◆震災後、外国人の観光客は急減している。ミシュランは「この本は日本の皆さんへの友情と励ましのシンボル」とのメッセージを添えてくれたが、相も変わらぬ原発事故処理のドタバタを見れば、多くの人が二の足を踏むのも分かろうというものだ◆首相が国際会議で訪日を呼びかけても、不信のまなざしは消えまい。復興に向けて強力な指導力を発揮すること、それが最良のガイドブックとなる。

(2011年5月30日01時26分 読売新聞)

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