Wednesday, July 6, 2011

06/07 天声人語

 サッカーのスーパーサブといえば控えの切り札を言う。ここぞの得点や局面打開を狙って試合途中に投入される。なのに即座にレッドカードを食らっては指揮官は青ざめ、観衆は興ざめだ。目玉人事で就任した松本復興担当相が、わずか9日で退場となった▼今の最重要課題を担う閣僚である。本人は就任を渋り、首相が三顧の礼で頼み込んだそうだが、関係はない。「大臣風」を吹かせ、「なってやった」と言わんばかりの居丈高を被災地に向けては人心は離れる▼帰京後も自覚はなかったようだ。宮城県知事が不快感を示したと報道陣から聞くと、「うわー、すごい知事だな」。旗色が悪くなると「九州の人間だから語気が荒い」「B型で短絡的」など、男の甘えと少女趣味をこき混ぜたような弁解をした▼スピード感は辞任ではなく復興にこそ欲しいのに、発揮場所が違う。それに、これほど誰もが当然視し、身内でも庇(かば)いようのない放言辞任も少ないだろう。〈ひょっとして政権つぶしの刺客かな〉。小紙川柳欄の勘ぐりにも一理ある▼「信なくば立たず」と孔子は言う。ずばり突くだけに座右の銘にする政治家は多い。この騒動で、被災地の「信」はさらに細っていよう。菅政権にまだ立つ瀬があるかどうかは、心もとない▼野党の追及がわりと静かだったのは、あまりの体たらくに政敵まで悄気(しょげ)てしまったからか。鏡に映る政治の姿の不器量に、与党も野党もたらーり脂汗を流す。このガマの油、何の傷にも効きそうにない。

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