Saturday, April 9, 2011

Tokyoshimbun Column - 筆洗 09/04

2011年4月9日

 <…テーブルの上で燃えている一本の蝋燭(ろうそく)/それは/闇が侵入するのを/懸命に喰(く)いとめているように見える…>(黒田三郎『またあした』より)▼大震災の被災地で、またロウソクに頼る人の数が増えてしまった。一昨日遅くの強烈な余震で、停電が広がったためだ。負傷者は多数、「3・11」を生き延びた命も奪い去られた。まさに、無慈悲な被災者への追い打ちというほかない▼引き続く余震、原発の危機、見えない明日…。ただでさえひどく心細いところへの停電だ。あの日以来、何本のロウソクが、自ら身を削って、被災者たちの不安をいや増す<闇の侵入>を食い止めてくれたことか▼私たちがふだん頼る電灯は、スイッチ一つで煌々(こうこう)となるが、停電や電池切れでアウト。ロウソクは明るいとはいえないが、マッチ一本あれば明かりになる。この震災でみえてきた「便利だが脆(もろ)いもの」と「不便だが確かなもの」。そんなことも考える▼被災地で、原発で、まるでロウソクのように自らの身を削って懸命に働いている人たちのことも思う。彼らこそ、これ以上の<闇の侵入>を防いでくれている私たちの“明かり”だろう▼NHKの番組で被災地に製品を送ったロウソク工場を取材していた若い男性タレントが会社の人にぽつり、言った。「僕、ロウソクみたいな人間になりたいです」。何か、少しジーンときた。

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