先週行われたゴルフのマスターズ・トーナメントの創始者、ボビー・ジョーンズは本業が弁護士で、ゴルフはアマチュアを貫いた。「名手たち」を意味する「マスターズ」を大会名にすることに反対だったという。ただの「招待大会」でいいと▲ベルギーの貴族が所有していた農園を切り開いた美しい18ホールと、世界最高峰の名手たちの競演が創始者の思いをよそに「マスターズ」を世界の4大大会に育て上げた。4大大会の中で一番歴史が浅いにもかかわらず、世界中のゴルファーが最も憧れる大会だ▲今年の大会は日本のアマチュア選手として初めて招待された東北福祉大2年の松山英樹選手が通算1アンダーの27位と健闘し、「ベストアマ」の表彰を受けた。同じ19歳の石川遼選手が3度目の挑戦で果たした決勝進出を1年目から達成した。歴史的な快挙である▲東日本大震災の当日は大学ゴルフ部の合宿でオーストラリアにいた。仙台に戻った松山選手ら部員を待ち受けたのは変わり果てた被災現場だ。こんな状況下でマスターズの招待を受けていいのか。大学には「ゴルフをしている場合か」というメールも届き、思い悩んだ▲「出場辞退か」との報道が出た翌日、一転して「ぜひ出てほしい」という電話やメールが大学に殺到した。これが松山選手の背中を押した。ゴルフで伝えられるメッセージにプロもアマもない。それを最高の舞台で実証した。天国のジョーンズも祝福しているに違いない▲石川選手らが14日からの国内開幕戦を戦う中、松山選手は16日、被災地でのボランティアを始めた。「名手」の誇りをひとまず胸の奥に封印して。
毎日新聞 2011年4月17日 東京朝刊
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