温暖化対策:修正へ…原発不透明、「25%減」見直し
環境省の南川秀樹事務次官が「20年までに温室効果ガスを90年比で25%削減」との政府目標を見直す意向を示した背景には、東京電力福島第1原子力発電所の事故で、温暖化対策の切り札になるはずだった原発の行方が極めて不透明になっていることがある。目標の達成には原発の新増設と稼働率向上が前提になるが、菅直人首相も原発計画を再検討する構え。政府が環境政策の目玉として世界に公約した25%削減だが、修正は必至の情勢といえそうだ。【立山清也、野口武則、バンコク西尾英之】
◇民主内「やむなし」
「数字的に原発の影響は大きい。20年25%(の削減目標)は当然、見直し議論の対象となる」。南川次官は3日、国連気候変動枠組み条約の作業部会出席のため訪れたバンコクで記者団に語った。枝野幸男官房長官も4日、削減目標の見直しが検討課題になるとの可能性を示唆した。
政府は温室効果ガスを25%削減するため、(1)発電時に温室効果ガスを出さない原発を20年までに9基新増設(2)原発の稼働率を約65%から約85%に引き上げ--を掲げてきた。これらにより、温室効果ガスの排出量を5%程度削減できるとしていた。
しかし、福島の事故を受け、中部電力が浜岡原発6号機の着工を1年延期したり、各電力が新増設の一時中断を相次いで表明。菅首相も1日にサルコジ仏大統領との共同記者会見で積極的な原発推進を掲げたエネルギー基本計画の再検討を表明した。政府関係者は「計画通りの新増設がない限り、25%削減の達成は到底無理。火力発電所の新増設で排出量も増えるので目標修正は不可避」と話す。
目標修正となれば、日本は原発に依存しない温暖化対策の策定という難題を抱えることになるが、南川次官は「今突っ込んだ議論をするのがいいとは思わない。長期的に日本に何が利益になるのかを考えるべきだ。もう少し時間が必要」と述べるにとどまった。
一方、民主党にとって、子ども手当や高速道路無料化に続く看板政策の見直しを意味するが、原発事故の影響がなお予断を許さない中、党内にはやむをえないとの声も出ている。25%削減の推進派だった岡田克也幹事長も4日の会見で「福島第1は廃炉の方向で、原発新設も難しいということを踏まえて検討しなければならない」と述べた。ただ、目標は鳩山由紀夫前首相が就任直後の国連総会で言及した国際公約でもあるだけに、鳩山グループには「原発政策の抜本的な見直しは必要だが、25%削減の看板は簡単に下ろすべきではない」との声も出ている。
◇世界削減目標にも影響…各国が慎重姿勢に
福島第1原発の事故をきっかけに、ドイツが老朽原発7基の運転を3カ月停止したり、中国が新規原発の審査を一時中断するなど海外にも影響が広がっている。原発は「クリーンエネルギー」として地球温暖化問題解決のカギを握るとされ、新設の動きが活発化していたが、日本が原発建設推進と温室効果ガスの削減目標をそれぞれ見直す動きを示したことで、世界的な削減目標にも影響を与える可能性が出てきた。
原発建設は、旧ソ連・チェルノブイリ事故などの影響で、80年代以降に停滞。しかし、00年代に入ると中国など新興国の電力需要の急増や温暖化対策の必要性から、原発推進機運が高まり、「原子力ルネサンス」と呼ばれた。
しかし、福島第1原発事故の発生後、中国やドイツに加え、タイやイスラエル、ベネズエラなど世界各国で計画見直しが進んでいる。こうした動きが、「温室効果ガスの削減目標に影響を与えるのは避けられない」(米大手証券)との見方が強まっている。
年末に開かれる国連気候変動枠組み条約第17回締約国会議(COP17)に向け、バンコクでは作業部会が開かれているが、欧州連合(EU)代表団は「(福島第1原発が)各国の原発計画に影響を与える」と認め、今後の温暖化対策への影響は避けられないと指摘した。また、インドネシア代表団も「日本が削減目標を下げれば各国への影響も大きい」と懸念する。
現在の国際ルールである京都議定書は12年末まで先進国に温室効果ガスの排出削減を義務付けたが、米国は離脱し、中国など途上国には削減義務がない。日本の政府関係者は「福島が落ち着かない限り、温暖化対策がどうなるかは予測できないが、取り組みの再検討は必要になるだろう」と話すが、ある関係者は「13年以降のポスト京都の削減がどうなるのか、先行きが一層見えにくくなった」との悲観的な見方を示した。
毎日新聞 2011年4月4日 21時43分(最終更新 4月4日 23時49分)
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