Tuesday, July 12, 2011
12/07 天声人語
その名は、豊作を念じて父親が考えたという。沢穂希(ほまれ)さん、32歳。「なでしこジャパン」の主将である。15歳で日本代表になって以来、女子のサッカーを支え続けた功労者が、また一つ誉れを手に入れた▼女子ワールドカップを戦うなでしこは、地元ドイツを1―0で破り、初の準決勝に進んだ。3連覇を狙う相手は過去8戦して勝てなかった難敵だ。それも、大入りの観衆を向こうに回しての快挙である▼選手は、震災の映像を見直して大一番に臨んだと聞く。延長戦後半、沢さんが「願いを込めて」相手守備陣の裏に浮き球を放り込む。丸山桂里奈(かりな)選手が走り込み、ぎりぎりの角度から歴史的な決勝点をあげた。疲れた相手の足が届かない、ここしかないというパスとシュートだった▼沢さんは男の子の中で強くなった。小学生時代、試合中に「女のくせに」とスパイクを蹴られたことがある。その子は、心でわびているに違いない。代表での通算得点は今大会で78に増え、あの釜本邦茂さんを抜いて最多となった▼サッカーは長らく「男のスポーツ」だった。沢さんにも女子ゆえに出られなかった試合がある。悔しさは練習とゲームにぶつけるしかなかった。その背中を見て、女の子が当たり前にボールを追い始めている▼アトランタ五輪で惨敗、続くシドニーは出場もできず、廃部が相次いだ低迷期がある。沢さんらはドイツ戦のように耐え忍び、見事に盛り返してみせた。何本もの青い穂に大粒の「なでしこ人気」を実らせて。
Labels:
asahishimbun,
column,
editorial,
opinion,
tenseijingo
Subscribe to:
Post Comments (Atom)
No comments:
Post a Comment