津波の被災地では今週から多くの学校が再開した。過酷な体験をし、心に不安や苦しみを抱えた子にどう接するか、先生たちは悩んでいる。
避難所では怒りっぽくなったり、不眠を訴えたりする大人が増えている。子どもは急に甘えたり、多弁になったりする。突然「津波ごっこ」をして、周囲を驚かせる幼児もいる。
あれだけの大災害だ。気が張りつめた時期を過ぎると、心の動揺が様々な変調になって表れる。それは誰にだって起こりうる正常な反応だ。
被災者に接する人や親、先生がそのことを理解し、「大丈夫ですよ」と伝える。被災者が自然に力を回復するのをそばで見守り、「つながっている」という感覚を持ってもらう。心身をリラックスさせる工夫を、避難生活にとりいれる。
震災1カ月余りが過ぎ、とても大事になってくることだ。
阪神大震災後、被災者の心のケアが必要だという理解が広がった。今回も、全国から精神科医らのチームが現地に入った。文部科学省もスクールカウンセラーらを派遣する予定だ。
被災者には家や就労の問題ものしかかる。行政が出来る限りの対策を打とう。それでも新たなストレスとなり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ病が慢性化する心配がある。どう防ぎ、対処するか。
数週間で交代する派遣型でなく、医師、保健師、精神保健福祉士、臨床心理士といった専門家を被災地に増やす。彼らの連携による「心のケア態勢」を地域に築くことが必要だ。
精神医療への敷居はまだまだ高い。避難所や仮設住宅を回って相談に乗りながら、心の状態に気をつける。診察を受けに来やすい拠点を保健所などに設ける。そんな工夫を考えたい。
目の前にはがれきの街が広がり、今も家族に会えない人がいる。津波では人を助けようとして犠牲になった例も多い。喪失感に加え、自分だけ生き残ってしまったという感覚が、人々の心を苦しめる。
「津波てんでんこ」という言葉が三陸地方にある。「津波では他人に構わずてんでばらばらに逃げろ」といった意味だ。岩手県で活動をした臨床心理士の小沢康司・立正大教授は、社会がこの言葉を繰り返し発信し、教訓を伝えると同時に、自責の念を和らげるメッセージにできないかと、提案している。
被災地が力を取り戻し、再建する長い過程を、社会全体が後押しする。そのことが「心の復興」にもつながるはずだ。
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