Friday, July 8, 2011

08/07 天声人語

 「サクラ」の語源ははっきりしないらしい。春に咲くサクラではない。客を装って品物をほめたり、高く買ったりして購買心をあおるサクラのことだ。露天商の隠語から広まったらしいと手元の辞典にはある▼さて、電力会社にはどんな隠語があるのだろう。玄海原発の運転再開をめぐる県民向け説明会に絡み、九州電力の幹部が再開賛成の「サクラメール」を送るよう子会社などに指示していたことが露見した。会社思いの幹部の「単独犯行」と思う人は、まずいまい▼企業の「文化」か、あうんの呼吸の上意下達か。社長の謝罪会見も奇態だった。「責任は私に」と言いつつ、関与を聞かれるとはぐらかした。押し問答が続き、途中でメモを渡されて「指示はしていません」。虚実と損得を天秤(てんびん)に掛けたのが丸見えだ▼ものごとの倒錯を表すのに、足を削って靴に合わせる愚の例えがある。原発は事実を曲げ、真実を隠して「神話」という靴をはいてきた。そのうえ世論をゆがめる企てときては、欺瞞(ぎまん)はいよいよ深い▼原発の怖さは放射能だけではない。反原発を貫いた故高木仁三郎氏の一冊から拝借すれば、こういうことだ。〈ひとつの原発の建設は、その他の選択肢をすべて圧殺してしまう。巨大な資本が投入され、地域経済も支配される。巨大権力集中型のエネルギー社会を否応(いやおう)なしに生み出していく〉▼聞けば海江田経産相も辞意を固めたそうだ。地震列島にこの政治、この電力会社。信ずべきものがいよいよ見つからない。

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