Tuesday, May 31, 2011

27/05 天声人語 - 震災に乗じた詐欺や悪徳商法も多い

2011年5月27日(金)付

やると決めた者は来店時から怖い顔で、「蜃気楼(しんきろう)のような強い邪気」を発しているという。『万引きGメンは見た!』(伊東ゆう著、河出書房新社)にある。逮捕もある犯罪だ。にじみ出る緊張と悪意を、プロの保安員は見逃さない▼そんな最低限の人間味すらうかがえない、軽く乾いた所業である。コンビニなどの震災募金箱が、全国で盗まれているという。東京だけで約40件、神戸のマクドナルドでは箱をとめたワイヤが切られた▼大書された「大震災」にも、感じるところはないらしい。火事場泥棒の抜け目なさと、さい銭ドロの罰当たりをこね混ぜた卑しさ。小欄の読者とは思えぬが、一応「恥を知れ」と書いておく▼震災に乗じた詐欺や悪徳商法も多い。家屋の補修を装うものや、「支援のカニを買って」「市役所ですが義援金を」と悪知恵は尽きない。自作の募金箱をレジに置く不届き者も出た。「会社の義援金を電車に置き忘れちゃって」は、おなじみの振り込め詐欺だ▼配給に列ができ、暴動もない被災地を、世界は「さすがに民度が高い」とたたえた。鈍することなき日本。だが、善意や不幸につけ込む震災犯罪の毒気に、わずかな救いさえ陰りかねない▼善人ばかりの世でもなし、日本人の倫理観が飛び抜けているとも思わない。それでも、こうした輩(やから)に警察の時間と公金が費やされるのは悔しい。どなたも一言あろうが、ちんぴらに大声で説教するのも馬鹿らしい。この難局、空しい怒りに回すエネルギーはない。

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