「心のケアさ言う人たちが来てアンケート書かされた。俺ら実験台か?」。心のケアが叫ばれる東日本大震災の被災地で、駆け付けた支援者により、かえって被災者が心の傷をえぐられる2次被害が懸念されている。不自由な暮らしが長引き、支援され続けるもどかしさが募る中、被災者に負担をかけない「寄り添い方」が必要だと専門家は指摘する。
岩手自殺防止センター(盛岡市)代表、藤原敏博さん(58)=盛岡市=は4月下旬、岩手県陸前高田市の実家近くの避難所で、被災者の男性から怒りをぶつけられた。「俺ら実験台か?」「一体誰のためにやってるんだ?」。最近訪れた「専門家」が精神状態を調べようと、男性に質問を重ねたらしい。藤原さんは無関係とはいえ、被災者にわびつつ、ひたすら耳を傾けた。話し終えた男性は少しすっきりした顔に見えた。
藤原さんは震災1週間後から毎週末、実家近くの3避難所に通う。足りないと聞いた物や心和ませる草花のプランターを届けるが「周囲にみんながいる避難所で悩み事を話せるわけもないから」尋ねることはあえてしない。同郷同士で時間をかけて距離を縮めることで「つらさが身に染みた時、私に話そうと思ってもらえるかもしれない」という考えだ。このごろは昔なじみ以外の被災者とも打ち解けるようになった。
男性は避難所で支援を受け続けることを負担に感じていたところに、納得のできない調査を受け、不満をため込んでいた--と、藤原さんは受け止めた。実家周辺の地域の人たちは、年を取って出漁できなくなると「自分なんてもう要らない」と思ってしまうぐらい、一方的に誰かの世話になることに対し抵抗があるという。
そうした傾向の背景として「この辺りの人はみんな『もっけだ』と感じる思いが強い」と、市内の避難所を運営する蒲生哲さん(48)は言う。「もっけだ」は同市周辺の方言で「ありがたいけれど迷惑をかけて申し訳ない」という意味だ。
阪神大震災(95年)の際、2次被害のケアにも当たったカウンセラーの吉備素子さん(68)=大阪府=は「被災者をデータのように分析しようとすれば怒りを招くのは当然のこと。気持ちを聞きだそうとするのでなく一人一人に寄り添い耳を傾けることが大切」と、2次被害の防止を訴える。【林田七恵】
毎日新聞 2011年5月6日 20時15分(最終更新 5月7日 0時17分)
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